(中)抗生物質が効かない菌も | 原発災害の情報など (休止)

(中)抗生物質が効かない菌も

(中)抗生物質が効かない菌も
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20060418ik01.htm
「小児科医の日常的な外来診察の中で、髄膜(ずいまく)炎は最も怖い病気です」
 大阪府堺市にある耳原総合病院小児科部長の武内一さんは、そう説明する。

 国内の髄膜炎の原因は、6割以上がHib(ヒブ)と呼ばれる細菌だ。乳幼児の5%が鼻の奥やのどに保菌しているとされる、ありふれた細菌で、せき、くしゃみなどで空気中に飛び、第三者に感染する。

 感染しても、症状が現れずに菌が消えることが多いが、まれに菌が血液に入って脳や脊髄の髄膜に達すると髄膜炎を発症する。Hib髄膜炎患者のほとんどが乳幼児で、5%が死亡、25%に聴覚障害や発達の遅れなどの後遺症が現れる。

 この病気が怖い理由は、発症した場合の深刻さだけではない。

 堺市に住む田中京子さん(31)の長男、俊輔君(3)は、生後5か月だった2002年秋のある午後、急に39度の熱が出て、吐いた。

 すぐに近所の診療所を受診したが、血液検査は正常で、「様子を見ましょう」と、点滴を受け、整腸剤をもらって帰宅した。

 翌朝も熱は下がらず、母乳も飲まない。元気がなく、整腸剤を飲ませると吐いた。慌てて診療所で診てもらうと、炎症があると高くなる白血球とたんぱく質の数値が異常に高い。すぐに救急車で耳原総合病院に運ばれ、髄液検査でHib髄膜炎と分かった。

 このように、発症の初期の段階では、血液検査に異常が現れない場合が多いのが、この病気の特徴だ。また、首の後ろが硬くなることが髄膜炎の判断材料の一つだが、Hibでは、初期だとその症状は患者の2割にしか現れない。このため、かぜやウイルス性の胃腸炎と区別がつきにくい。

 幸い、俊輔君の場合は抗生物質などの治療が功を奏し、後遺症が残らずに済んだが、診断がつかずに治療開始が遅れ、不幸な結末に至る危険性は高い。

 もう一つの怖さは、抗生物質が効かない耐性菌の出現だ。北里大北里生命科学研究所教授の生方(うぶかた)公子さんら研究班は99年から、全国285医療機関の髄膜炎の調査を続けているが、初年はゼロだったHib耐性菌が、年々急速に増え、04年には35%を占めた。

 つまりHib髄膜炎は、早期診断と治療のどちらも難しい病気なのだ。「だからこそ、一日も早くHibワクチンを導入して、髄膜炎の発症そのものを予防することが必要」と武内さんは訴える。

 欧米では、乳児へのワクチンの予防接種が普及し、髄膜炎が激減した。しかし日本では、まだワクチンの承認すらされていない。

   Hib髄膜炎の特徴

 ・1年を通して発症するが、秋から冬に患者が増える。

 ・患者の6割が0~1歳。近年、1歳未満の患者が増えている。1歳未満の方が後遺症が残る危険性が高いとされる。

(2006年4月18日 読売新聞)

S