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(上)先進国で唯一 未承認

(上)先進国で唯一 未承認
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20060417ik01.htm
父親に抱っこされ、三つ年上の兄と遊ぶ幸太郎君。右は母親の里江さん(埼玉県の自宅で)
 「ワクチンを打つことができれば、こんなことにはならなかったのに……」

 埼玉県ふじみ野市の主婦吉田里江さん(30)は、今も悔しい思いをぬぐい去ることができない。

 2003年8月、生後3か月だった二男の幸太郎君に38度近い熱が出た。近所の開業医の診断は「かぜ」。3日間受診し、薬を飲んでも熱は下がらず、ぐったりしていたため、紹介された総合病院を受診した。

 背骨から髄液を抜いて検査した結果、診断は髄膜炎。それも重症だという。

 髄膜炎とは、脳や脊髄(せきずい)を覆う髄膜に細菌やウイルスが感染し、炎症を起こす病気。頭痛や発熱、嘔吐(おうと)、ひきつけなどの症状が表れる。

 幸太郎君の場合は、「Hib(ヒブ)」という細菌による髄膜炎だった。わが国の細菌性(化膿(かのう)性)髄膜炎の6割以上はHibが原因で、肺炎球菌と合わせると9割を占める。患者数は年間600人、5歳未満の乳幼児2000人に1人が発症し、患者の5%が死亡する。

 幸太郎君は即、入院し、抗生物質などによる治療を受け、3週間後には無事退院できた。

 しかし、吉田さんの不安は消えなかった。Hib髄膜炎患者4人のうち1人に後遺症が残るという。主治医は「しばらく様子を見ないと……」と繰り返す。やがて、不安は的中した。

 1歳になっても「はいはい」ができない。言葉も、単語が一向にしゃべれない。2歳5か月になった昨年10月、病院の発達外来で知能テストを受け、医師から「発達が1歳から1歳半遅れている」と告げられた。さらに、こうも言われた。

 「成長とともに発達していきますが、残念ながら、他の同年齢の子どもに追いつくことはありません」

 ショックを受け、涙があふれた。「この子の将来はどうなるの?」と不安は募る。

 吉田さんは昨年春から看護専門学校に通っているが、Hibの感染を予防するワクチンがあることを授業で初めて知り、驚いた。

 Hibワクチンは世界各国で使われ、髄膜炎の発症が激減している。ところが先進国では日本だけ、いまだに薬が国に承認されておらず、予防接種が受けられない――というのだ。

 悔しさは消えない。しかし今は、幸太郎君のありのままの姿を受け入れるしかない。



 「後遺症で苦しむ家族がこれ以上増えないように、早くワクチンが使えるようになってほしい」。それが、せめてもの願いだ。

 わが国では、Hib髄膜炎の怖さとワクチンの重要性が、あまりに軽視されてきたのではないか。

 Hib(ヒブ=インフルエンザ菌b型) 肺炎や敗血症など様々な感染症の原因となる細菌。冬に流行するインフルエンザを引き起こすウイルスとは全く別。100年ほど前、インフルエンザの患者にこの菌が見つかったことから命名された。

(2006年4月17日 読売新聞)

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